PeachRedRum

高梨臨ちゃんのファンです

帰り道

夏の終わりくらい。戦いの帰り道。オールキャラ出てきますが殿茉子。

 

 

 茉子は戦いが終わった後の帰り道が好きだった。流ノ介や源太がわいわい言い合いをし、千明とことはがニコニコ笑い合う。丈瑠がそれを見守るように歩き、さらに後ろをゆっくり茉子が歩く。

 

 だけど、「みんな何してるの?」今日はみんなやけに歩くのが遅く、いつの間にか茉子が先頭を歩いていた。茉子が振り向くと、男達が慌てて首を振る。「イヤイヤイヤイヤ何でもない」

「ふぅ~ん」また歩き始めてもやはり追い越される気配もない。少し歩くのを早めると、つかず離れず一定の距離を保ってついてくる。

 

 茉子が急に立ち止まり振り向く。「もう! 何なの、一体」

「茉子ちゃん、今日お団子やから、うなじがきれいやなぁって」

 ことはが無邪気に言うと、流ノ介、千明、源太がバツが悪そうな顔をしながらもニヤニヤしている。

 最近、違和感があったのは髪型のせいだったのかと思い当たった。気候のせいもあり、今日みたいに髪を結い上げたり、ポニーテールにする事が増えた。

 朝稽古を終え、縁側に腰掛けてことはと雑談しているとどういうわけか男達も立ち去らずに茉子の背後をウロウロしていることが続いていた。ずっと見られていたことに急に恥ずかしさを感じて、茉子の白い肌がみるみる赤くなる。

「茉子は自覚がなさすぎるんだ」

 それまで黙っていた丈瑠が歩を早め、追い越し様にさらりと茉子のうなじをなでた。

「…ちょっと!」茉子は丈瑠に触れられた部分を手で覆った。

「お前達、さっさと歩け。一番遅かった奴は俺が稽古をつけてやる」

「あ、俺、店出さなきゃ」

「源ちゃん、ずるいぞ!」源太が道を引き返し、年少組は慌てて丈瑠の後を追う。

 流ノ介が気遣うように茉子を見る。「茉子…」

「流ノ介、さっさとしろ」

「…ハッ」

 流ノ介は殿が絶対だ。躊躇しながらも後を追う。

 

「わぁキレイ」ことはが突然声を上げた。いつの間にか日が陰り始め、綺麗な夕焼けになっている。五人は立ち止まり、夕焼けに見入ってしまった。丈瑠は茉子を見た。夕焼けに見とれ、いつもは決して見せない無防備な表情に丈瑠は自然と頬が緩む。

 

 茉子がふと視線を感じてその方向を見ると、丈瑠がいつの間にか傍に立っており、茉子を見ていた。

「やっぱり茉子は自覚がなさすぎる」

「どういうことか分からないんですけど」

 夕焼けに向き直り茉子が拗ねたように言う。召集されたばかりの頃はこんな子供じみた表情を見せるとはとても思えなかった。

「流ノ介達には刺激が強い」

「これから暑くなるのに慣れてもらうしかないでしょ。じゃなきゃ短くするとか」

「それはダメだ」少し離れた場所で二人が何かしゃべっているのをめざとく千明が見つけた。

「なぁ俺ら先に帰った方がよくね?」

「しかし…」流ノ介は少々不服そうだ。

「ことは、帰ろう」

「うん」子犬みたいにじゃれつきながら年少組の二人は歩き始めた。流ノ介もそこに続く。

 

 辺りはあっという間に暗くなっていた。

「…帰るぞ」丈瑠は茉子の手を取り歩き出す。

 驚き、少々戸惑う様子の茉子に丈瑠が言葉で制する。

「茉子が騒げば俺達が何をしてるかバレるぞ」

「脅迫?」

「嫌なら騒げ」

「意地悪」

 先に歩く三人の楽しそうな笑い声が響く。茉子は丈瑠の横顔をそっと見上げた。「丈瑠」

「なんだ」照れているのか茉子の顔も見ずに丈瑠がいつものようにぶっきらぼうな返事をする。

「何でもない」茉子は繋いでいた手を引き寄せ、腕を組む。

「!」

「こんなにくっついたらイヤ?」茉子がじっと見つめた。

「嫌なわけないだろう」やっぱり顔を見ないで平然と歩こうとしている丈瑠に茉子から思わず笑いが漏れた。

 

「殿、大分暗くなって参りました。早く帰りましょう」

突然流ノ介が振り向いたので、茉子は慌てて体を離し、みんなの方へ駆け出した。

 

「丈瑠が最後だから特別稽古はナシ!」茉子が言い、千明から歓声があがる。家臣達のいる暮らしが当たり前になって来たが、あの大きな瞳で見つめられることだけはいつになっても慣れそうもなかった。