『酔い』『しらふ』に次ぐ酔っ払い茉子(^^ゞ
「茉子…」
丈瑠がわたしの目を見て微笑み、頬をそっと撫でた…
布団の中で目が覚めて、夢の話なのに顔が赤らんでしまう。最近、丈瑠の存在が特に身近に感じるのはなぜだろう。二人で飲む機会が増えたせいだろうか。
ある時、丈瑠から二人で飲もうと誘われた。源太の屋台ではなく志葉邸の縁側。気分がよくなっていつの間にか、ひとり布団の中、ということが最近続いている。結構お酒は強いはずなのに丈瑠はもっと強いらしい。そして、決まって夢を見る。丈瑠と二人、まるで恋人同士のようにベタベタしている。夢の中の丈瑠は甘えれば受け入れてくれ、優しい笑顔を向けてくれる。
飲みすぎてしまった次の日は、丈瑠に謝りに行くけど、いつもと態度は変わらない。だけど、また飲もうと誘ってくれる。
「私と飲んでて楽しい?」
「まあな」
ホントは嫌なのに、丈瑠なりの優しさなのかもしれない。もう飲みすぎないようにしなくちゃ…だけど丈瑠はすごくお酒を勧めてくる。
「丈瑠ー、ホントは嫌なんでしょう? わたしと飲んだって面白くないし」
結局また二人で飲んでいるとき、酔っぱらっている勢いで聞いた。
「そんなことないと言ってるだろう」
…ほら。また忘れてる。気付いたらまた布団の中。
「茉子、好きだ」
丈瑠が少し硬い表情を言った。緊張してるみたい。
「わたしも好きー」
夢の中では大胆で隣で飲んでいた丈瑠の腰に抱き付くような姿勢になっている。
「そうか」
「嬉し…」
見上げると丈瑠の顔がすぐ近くにあって、唇で塞がれた。断片的に夢を思い出すと、また顔が赤くなる。
ダメ、最近じゃ丈瑠の顔がまともに見られなくなってしまった。ついに丈瑠にキスされる夢を見るなんて…
「また飲もうか」
休みの日、一人奥座敷で雑誌を読んでいると、丈瑠に声をかけられた。
「…しばらく二人は止めない? 何だかしょっちゅう記憶なくしててそのたびに丈瑠に迷惑かけてるんじゃないかって思ったら悪くて」
「俺は迷惑していない」
「でも…」
「…」
丈瑠はかすかに表情を曇らせて意を決したように話し始めた。
「…悪かった」
「え?」
「記憶をなくすほど酔わせたのは俺だ」
「違う、そうじゃなくてそれはわたしの…」
「イヤ、俺がわざと記憶をなくすほど飲ませた」
「どういうこと?」
「酔っぱらった茉子が…かわいかったからだ」
「?」
「素直に甘えてきたり、くっついてきたりして」
「あれは夢じゃなかったの?」
「夢なんかじゃない」
じゃあれもこれも現実だったの―――!?
「でもあんなに優しいの丈瑠じゃないみたい」
「茉子だって普段はそんなに素直じゃないだろ」
「だって」
二人は見つめ合い、笑う。
「だけど確かに素直になるが、すぐ寝てしまう」
「でも何度も酔わせたでしょう?」
「次の日に昨日のことを全く覚えてなくて、いつもみたいな態度を取られるとどうしようもなく寂しい気持ちになった」
「丈瑠だってそっけないくせに」
丈瑠の手が茉子の頬に伸びた。
「この間の夢と一緒」
わたしが見つめると、丈瑠も目を見て言った。
「だから夢じゃないと言ってるだろう」
丈瑠の顔が近づいて、自然と目を閉じた。夢のようだけど、夢じゃない。だけど、しばらくすると障子にさっと人影が映る。あれは黒子さん?
「ここじゃまずいか」
気配に気付いていったんは離れたものの、やっぱり離れがたく、丈瑠は手を引いて奥のふすまを開けた。
「俺の部屋に行こう。あそこなら簡単に人は入って来ない」
これって夢じゃないんだよね? 私は丈瑠の後に続いた。