PeachRedRum

高梨臨ちゃんのファンです

真実

源太から見た赤桃。

 

 

「丈瑠くんは今日は来るの?」

「いや~、どうかな」

「仲いいんでしょ? 知ってるくせに教えてくれないなんて意地悪ね」

 

 はー、苦手だな、この手の客。丈ちゃんの仲間になってこの街で屋台も始めた。常連客は増えたけど、いるんだよな、丈ちゃん達が目当ての客で、やたら突っ込んだことを聞いてくる。客だからこっちも無下にできないし…。俺や丈ちゃんより多分ちょっと年上(イヤ、結構上かもしれない)。ケバくて声が大きくて…どう考えても丈ちゃんの好むタイプに思えない。

 

「いっつも一緒にいる女いるでしょ、背が高い方。あれ、何なの、彼女気取りで」

 

 少し前からやたら茉子ちゃんの悪口を言うのもムカつく原因の一つだ。茉子ちゃんは丈ちゃんと隣り合って座ってることもほとんどないのに、それでも気に入らないのだという。まぁ俺だって見てればわかる。あの二人のまとっている空気は他人に入り込めない空気を出すから。そういうのは見ていてわかるらしい。

 

「あ、悪いね、あの子そいつの彼女だから」

「嘘でしょ?」

「ホント、ホント。お似合いでしょ、あの二人」

 

 あー、俺だってこんなこと言いたかないけど、仕方ない。客を失うのは痛いが、さすがにうっとおしくなってきた。

 

「そう。じゃ話をさせてよ。彼女と」

「…えぇっ? 何を?」

「女同士の話よ」

 

 ある時、屋敷に立ち寄った時に茉子ちゃんを呼び寄せて話をした。

 

「てなわけよ」

「もーなんで勝手に彼女にしちゃうかなぁ?」

「諦めるかと思って」

「分かった。いいよ。話はする。源太の常連客がまた減っちゃうかもしれないけど」

 

 以前も茉子ちゃん目当ての青年が通っていたこともあった。気の弱そうな青年だったから、丈ちゃんが少し話をしただけであっさり諦めてくれたっけ。それからは丈ちゃんに茉子ちゃん目当ての客は極力茉子ちゃんに接触させないようにきつく言われている。

 

「いやいいんだ、そんなこと」

 

 情けないことに案外丈ちゃんたちが目当ての客が多いことも確かだ。二人で丈ちゃんにこのことは話さないでおこうと決めた。丈ちゃんを煩わせたくないと茉子ちゃんは言って、一人でやってきた。そこに例の客も。

 

「へぇー、あなた一人?」

 

 席についている女の前に茉子ちゃんが立っている。まっすぐ女に視線を合わせる。それを上から下までじっとりと女は見つめた。

 

「えぇ」

「あなた丈瑠くんの彼女ってほんとなの?」

「ええ。お付き合いしてます」

「証拠見せてよ? 前に丈瑠くんに告白したの。あっさりフラれたけどね。彼女はいないし、作るつもりもないと言ってた」

 

 茉子ちゃんと思わず顔を見合わせてしまった。俺も知らなかったし、茉子ちゃんも戸惑っている。

 

「あなた丈瑠くんの何なの?」

 

 茉子ちゃんは意を決したように話し始めた。

 

「…仲間です。一緒に戦っている」

「ふふっ、何言ってるの? 好きなんでしょう? 彼女気取りだけど相手にされてない」

 

 女が酷い顔で笑う。俺が口を挟みそうになった時、茉子ちゃんは静かに言った。

 

「好きですよ、相手にされてないのもわかってます」

 

 俺は驚いていた。丈ちゃんととっくに気持ちを通じ合わせていると思っていたのに違うのか?

 

「よかったね、あなたにもまだチャンスがあるんじゃない?」

 

 女が俺に笑顔を向けながら言った。

 

「あなたなら私に協力してくれると思ったのに」

 

 この女、俺の気持ちさえ知ってたってことか。

 

「俺は―――!」

 

「なんだか今日は騒がしいな」

「丈ちゃん!」

 

 丈ちゃんが暖簾をくぐって屋台に入ってくる。

 

「どうした、茉子」

 

 丈ちゃんは立ち尽くしている茉子ちゃんに声をかけた。女の存在などまるで目に入っていないようだった。

 

「ううん、何でもない」

 

 茉子ちゃんは、ほっとしたようなでも真剣な表情のままだった。

 

「ここに座れ」

 

 自分の隣をとんと指で叩くと、丈ちゃんは席についた。

 

「うん…」

 茉子ちゃんは丈ちゃんの隣に座った。

 

「まだ話は終わってないけど?」

 

 女はまだ食い下がろうとしている。

 

「源太、もういいだろう」

 

 丈ちゃんが厳しい視線を俺に向けた。

 

「お客さん、悪いけどもうここには来ないでくれねぇか?」

「何よ、それが客に対する態度?」

「お客さんは俺の大事な客を傷付けた。それは許せない」

 

 俺を睨み返した女は今度は丈ちゃんに目を向けた。

 

「丈瑠くん」

 

 丈ちゃんは茉子ちゃんをかばうように立ち上がると、女の目を見て言った。

 

「あんたみたいな人に本当のことなんて言いたくなかったけど、俺の方が相手にされてないだけで好きな人はいます。その人は俺よりずっと精神的に大人で俺と一緒に戦ってくれています」

 

 茉子ちゃんがハッとして丈ちゃんの顔を見上げている。

 

「だからもう俺達に構うのはやめて下さい」

 

 丈ちゃんは女に深々と頭を下げた。

 

「戦ってるとか何言ってるの? ちょっとからかっただけでしょ」

 

 女は悔しそうな表情を浮かべ、去っていった。丈ちゃんは座ると平然とお茶を飲み始めた。

 

「源太、早く寿司を出せ」

「あ、あぁ悪ぃな」

 

「丈瑠一人でも大丈夫だったんじゃない?」

 

 茉子ちゃんがいつもと同じ笑顔を見せた。だけど少し無理をしているようにも見える。

 

「あー、そうみてぇだな」

 

 俺は、握った寿司を二人の前に出した。

 

「丈瑠、話を合わせてくれたんだね」

「…俺は嘘は言ってない」

「丈瑠を相手にしない人なんているわけないよ」

「どうだか」

「少なくともわたしは…」

 

 丈ちゃんが盛大にむせたかと思うと、一瞬恥ずかしそうに下を向いて、黙って寿司を食べ始めた。俺が今まで見たことないような顔だった。その顔を見た茉子ちゃんまで見たことのないような表情を見せ、丈ちゃんの背中をさすっている。ほんっとにお前ら、見せつけてくれるよな。丈瑠に見せた表情なのに、俺はやっぱり茉子ちゃんに見とれてしまった。