殿執事後の殿茉子。
年少組を屋敷に帰し、いつもの源太の屋台で酒を飲む年長組。
「源太、わたしにはないの?」
「何が?」
「だから、ことはみたいにお坊ちゃんとかが結婚して下さいとか」
「茉子ちゃん玉の輿狙ってるの?」
「違うよ。丈瑠を執事にして連れ回したいんだよね」茉子が楽しそうに言う。
「ことはは優しい子だから丈瑠に執事させることに抵抗あったみたいだけど、わたしならビシビシしごくのに」
「茉子、殿に対してなんてことを」流ノ介が諌める。
「でも楽しかったでしょ?」
「もうあんなことはしない」丈瑠は少し不機嫌そうな顔をする。
「わたしもきれいなドレス着てパーティーに行きたいなぁ。そして白馬に乗った王子様が迎えに来てくれるの」酒を飲んだ茉子は饒舌だった。
「…茉子ちゃん意外と乙女なんだな」源太が少々呆気に取られていた。
「意外は余計」
「茉子の夢は結婚なんだ」流ノ介が源太に説明した。
「へぇ~どんな人がいいんだよ」
「優しい人がいいな。そしてぎゅーっとしてもらう」
思わず男性陣が黙ってしまったのを見て、茉子は慌てて「あ、ウソウソ、今の違うから」と慌てて弁解をした。
「私達は少し茉子に甘え過ぎているのかもしれませんね」
「…あぁそうだな」
「だから違うって。そんなに深刻にとらえないでよ」
「…今日は遅い。帰るぞ」
茉子が立ちあがったとき、少しふらつき、丈瑠に腕を掴まれた。「ごめん、大丈夫だから」
「飲み過ぎだ、俺たちの倍くらい飲んでたぞ」
丈瑠は背中を向けて姿勢を低くした。「背負ってやる」
「でも…」
屋台の中から声がする。「茉子ちゃん、背負ってもらえよ」
「いいの?」
「早くしろ」
「…じゃお願いします」
「私はもう少し飲んで行くので茉子をお願いします」
「あぁ」
屋台に残った男が二人。
「流ノ介、いいのか?」
「源太こそ」
「今日は飲むか」
「実のところはどうなんだ?」
「まぁ丈ちゃんに断るように言われてるし」
「そうか」
「さぁ飲み直しでぇ」
ダイゴヨウの光が二人を優しく包んでいた。
「ごめんね。殿様に背負わせるなんて家臣として最低だね」
「さっきは執事にしてしごきたいと言ってたじゃないか」
「それとこれとは別…」
「白馬なら俺がいつでも乗せてやるぞ」
「ふふ、何よそれ…」
「…茉子?」間もなく規則正しい寝息が聞こえてきた。どうやら眠ってしまったらしい。「甘え過ぎ…確かにそうだな」丈瑠はつぶやいた。(だけどもう少しだけ俺を甘えさせてくれ)もうすぐ志葉家に到着する。丈瑠はわざとゆっくり歩いた。