PeachRedRum

高梨臨ちゃんのファンです

ある夏の夜

第二十七幕の後あたり。殿茉子+緑黄。

 

 

 夜。源太の屋台にはいつものようにシンケンジャーが集っていた。

 食事も一通り終わり、くつろいでいた頃…

「コレ、飲んでみっか?」源太が調理台の下から取り出したのは一升瓶。

「いや~常連さんから貰っちゃってさぁ」

「おぉー! 俺飲む!」

「千明、アンタ未成年でしょ」

「そ! 千明とことはちゃんは先に帰った帰った」

「なんだよ、源ちゃんのケチ!」

「千明、一緒に帰ろ」ことはに無邪気な笑顔を向けられると、千明は何も言えなくなってしまった。それに、二人きりで帰るというのも悪くない。

「じゃー先に帰るわ」

 

 一方源太の屋台では

「お、なかなかいけるじゃないか、源太」

「だろー? 幻の酒だぞ」

「…」

「丈ちゃんもうまいだろ?」

「…あぁ」

「おかわり!」

「茉子ちゃん、ペースが速くないか?」

「いいの! これ飲みやすくておいしいし、私強いんだから」茉子は白い肌をほんのり上気させながら珍しくテンションが高くなっていた。

「源太も飲もうよ」

「俺はまだ店があるから…」

「もう閉店! 飲も!」

「べっぴんさんにこうまで言われちゃ仕方ねぇなぁ」

 夏の夜の空気も心地よく四人はしこたま飲んで、いつの間にか寝ていたらしい。ふと源太が目を覚ますと茉子の姿がない。源太は慌てて丈瑠や流ノ介を起こした。

「おい! 茉子ちゃんがいないぞ」

 

「あー! 俺も早く酒飲めるようになりたいなぁ」何となく眠れなくて志葉家の縁側に寝っ転がりながら千明がつぶやく。ことはとの帰り道は確かに楽しかった。いつもみたいに微妙にかみ合わない会話も千明の言うことにニコニコしたり驚いたり表情がくるくる変わっていくのを見ているだけで幸せを感じた。

「だけどなぁ…俺だってあの中に混ざりたい!」

体を起して庭を見るとふわりと白い影。

「…まさかお化け?!」

「お化けだなんて失礼じゃない」

 なぜか茉子が玄関ではなく庭を突っ切って縁側の方に向かってふらふらと歩いてきていた。

「姐さん? 一人で帰って来たの?」

「うん、夜風が気持ちよかったから」

「ったく、丈瑠も流ノ介も何してんだよ」

「違うの、私が一人で帰って来たかったの」

 千明の隣に座りながら茉子が言う。何となくいつもと違う雰囲気に千明は戸惑っていた。

「姐さん、酔ってる?」

「そんなことないよぅ」

(いや絶対酔ってるだろ…)

 ゆらゆらと体を揺らしながらしゃべる茉子を横目に千明はため息をついた。

「あー何? 今のため息はー!」

「もー早く休んだ方がいいって。明日も早いだろ」千明が茉子の肩に触れると、茉子が千明の顔を正面から見つめた。

「…な、なんだよ」

 とろんと潤んだ瞳の茉子が言う。「…千明…」突然茉子が抱きついてきた。

「ねねね姐さん?!」

「…」

 どうすることもできずに固まっていると「千明?」と聞き覚えのある声がして奥からことはが寝ぼけ眼で出てきた。

「いや、これはあのっ」

「千明、よかったなぁ」

「え?」

「茉子ちゃんにギュッとしてもらえたら元気になれるわ。さっきはちょっと元気なかったし」

 

「茉子ー帰ってるのかー?」流ノ介の声がした。

「流さん、茉子ちゃんならこっちです」

「こ、ことは今はちょっと」

「え? 何が?」

「いやあのこの状きょ…」

 

「!!! ちあきー!」流ノ介が素っ頓狂な声をあげ勢いよく障子を開け、縁側に出てきた。

「なにしてるんだ! 私の茉子に!!!」流ノ介の後ろには丈瑠の姿もあった。

(なんか怖いんですけど!)

 丈瑠は無言で千明を見ていた。

「…酔っ払っているんだろ、俺が部屋まで運ぼう」

「いえ、殿にそのようなことはさせられません。私が」

「いや、俺がやる」どすの利いた低い声に思わず家臣一同黙ってしまった。

 

 丈瑠が茉子をふわりとお姫様だっこすると、

「あれ? え?」どうやら茉子は千明に抱きついたまま眠っていたらしく、急な状況変化に驚いていたが「あ、丈瑠!」いつもは見せないふわりとした笑顔を丈瑠に向けると丈瑠の首に腕を回し、丈瑠の耳元に顔を寄せると「丈瑠、だーいすき」そこまでいうとまた眠ってしまった。

「わぁ」ことはが嬉しそうな声をあげたが、丈瑠は…

「殿ー殿ー、しっかり!」

 へなへなと倒れそうになった丈瑠を流ノ介が支え、結局、丈瑠も茉子も黒子さんのお世話になった。

「千明、どうしたん? 大丈夫?」

黒子さんに支えられた丈瑠と茉子に流ノ介も付いて行ったが、茉子がいなくなったのに、まるでまだ茉子を抱いてるかのような態勢のまま固まっている千明にことはが声をかけた。柔らかい茉子の体の感触がいまだに残っていて立ちあがれなかった。

「もう大丈夫だからことははもう寝ろ」

「ん。でもまだ千明のそばにいる」健気なことはのまなざしに

(あぁ俺すんげー幸せだー)

 またごろんと縁側に横になり、ことはと笑いあった。

 

 次の日。

「あれ? 丈瑠が稽古に寝坊するなんて珍しいね」

「…姐さん、もしかして昨日こと覚えてないとか言わないよね?」

「昨日?」

「茉子、もう酒は飲むな」不機嫌そうな丈瑠の言葉に流ノ介も大きく頷く。

「えー? どうして?」

「…どうしても飲みたいときは志葉邸内で俺とサシで飲むんだ、いいな」

 それだけ言い渡すと丈瑠は奥の部屋に引っ込んでしまった。

「何よ、もう横暴なんだから」茉子は不服そうにしてたが、「丈瑠と飲むのも楽しそう」とすぐに考えを切り替えたようだ。

 その後、酒を提供した源太、「私の茉子」と思わず口走った流ノ介、茉子に抱きつかれた千明は丈瑠から稽古と称してみっちり絞られた。

 

(…って俺、完全にとばっちりだろ!) 千明は心の中で叫んだ。