VSゴセイ後ということで多少捏造未来設定が入っています。金→桃←赤
ゴセイジャーとともに戦った後、彼らと別れ、帰途に着いた。茉子とことはは志葉邸に泊まることになっていたし、家が近くてしょっちゅう遊びに来ているはずの流ノ介や千明まで今夜は泊まるのだという。源太はまた屋台で夜を明かすんだろうか?
流ノ介と源太が肩を組み合ってなにやら楽しそうに話している。その後ろで千明がことはになにやら話しかけては2人で笑いあっている。半年ほど会っていなかったとは思えないくらいあの頃と変わらない風景がそこにあった。
「そういえばエリに聞いたんだけど、アラタって丈瑠と同じ年なんだね。全然見えない~」茉子が後ろを歩く丈瑠に振り返り笑いながら言う。
「人のこと言えないだろ、茉子」丈瑠も相変わらずだ。
「何よ。でもさ、かわいいよねアラタ」
「茉子と一緒だと弟にしか見えないだろ」
「じゃあ丈瑠とわたしだったらどう見えるの?」
「…殿と家臣だろ」
「ふ~ん、まぁそりゃそうよね」茉子が冷たい目で返す。
「あ、茉子ちゃん、あのなぁ千明が…」
「わーっなんでもないなんでもない」珍しく千明が慌てていた。
「えっ、なになに? どうしたの、ことは」茉子がことはの元へ向かう。千明にかまわずしゃべりだすことはに茉子は笑顔を向けていた。
「…丈ちゃん、素直になれよ。他に言い方があっただろ」いつの間にか2人のやり取りを見守っていた源太が丈瑠の肩をぽんぽん叩いた。
「フン」久々に会った照れもあって素直になれない丈瑠がいた。
「殿、さすがに私もあれでは茉子がかわいそうだと思います」流ノ介がおずおずと声をかけてきた。
「二人はその…付き合っておられるんですよね?」流ノ介は思い余って再召集される少し前、丈瑠に2人の関係を聞き出していた。
「なにぃーっ!! 俺は聞いてない。断じて聞いてないぞ」源太が大声を出すので、茉子たちが振り返った。
「もう何騒いでるの?」茉子はあきれた表情を見せたが笑顔だった。
「それにしても源太、髪が伸びてかっこよくなったんじゃない?」茉子が源太に言った。
「あ、そぉ?…ってじゃなくて茉子ちゃんは丈瑠と…イヤイヤイヤイヤイヤ…万が一認められたら俺…」
「なぁに? 一人でブツブツ…丈瑠、やだ」褒められたことにニヤニヤして頭をかいた源太から丈瑠に視線を移した茉子が小さな声でつぶやくと丈瑠の近くに行って、中途半端にめくれ上がっているパーカーを直した。
「…悪いな」
「ダメだよ、ちゃんと気にしなくちゃ」
「なにあの雰囲気」二人の感じがあまりに自然なことに真っ先に千明が気付いた。
「千明、ちょっとこっちに来い」流ノ介は千明たちを2人から少し離れたところに集めた。
「実は殿と茉子は…」
「いーや違う違う違う。茉子ちゃんは困った人をほっとけないんだ」源太は耳をふさいであくまで認めようとしない。
「ことは、千明…それと源太も今日は私の家に来い」
「え? 何で流さんの家?」
「久々に会うんだ…その…二人きりにさせてあげよう」
「まぁ俺はことはと一緒ならどこでもいいけど」
「え? どういうことなん??」ことはにとびっきりの笑顔で返されて涙目の千明がいた。
「いーや、俺は…」源太は頑なに拒もうとしている。
「源太、今日は飲もう、な?」
「…うー分かったよ。おう、もう今日はとことん呑むぜ」
「殿様と茉子ちゃん、前から仲良かったしな。手を繋いだり…」
「ことはちゃん、それ、どういうことでぇ?」
「だってウチ茉子ちゃんのこと好きやし、いつも見てたし」
「それはホントなのか、ことは」
「うん」満面の笑みでことはが答える。
「私もそこまでは具体的に知らなかった。いつ頃なんだ?」
四人は頭をつき合わせてこそこそしゃべりだした。時折、大きな声を出しそうになる源太を流ノ介や千明が抑えている。
急に四人が静かになったので茉子が不思議そうな顔で見ていた。
「何話してるんだろう、ね?」
「さあな。あいつらのことだからろくでもないことだろうけど」
「わたしと丈瑠ってやっぱり殿と家臣にしか見えないのかな?」
「変なこと言って悪かったよ」くしゃっと丈瑠が茉子の頭を撫でた。
「今日の夜は…」先程のテレ笑いから真剣な顔の丈瑠が茉子を見た。
「でも今日はことはと一緒に寝るって約束してるから」茉子はまた顔が赤くなった。
「茉子ちゃん、ウチ今日は流さんの家にお邪魔させてもらうことになったから大丈夫やで」いつの間にかそばにことはがいた。
「だからまぁ二人の時間を楽しめよ」
「千明…何よ、急に」
「まぁまぁまぁ流ノ介から全部聞いたよ」千明の脇でことはもうんうんうなずいている。
「流ノ介が何を知ってるのよ?」茉子が顔を真っ赤にしながら怒っている。
「…私は殿からすべて聞いている」
「すべてって何?」
「それは私の口からはとても」流ノ介まで顔を赤くしている。
「あの話を聞けば俺も諦めざるを得ないってことよ」
「源太まで! ちょっと丈瑠からも言ってやってよ」
パリから駆けつけた源太は早速屋台を開いてくれて、みんなをもてなしてくれた。丈瑠は一時的にではあるが血祭りのブレドランに操られていたこともあり、疲れたのか先に屋敷に帰っていた。
半年前と変わらないかに思えた仲間たちは少しずつ変わっていた。小さな屋台に並んで近況を聞く。流ノ介は若手歌舞伎役者として忙しい日々を送り、千明も予備校生として勉強に勤しみ、さらにことはに会うための交通費を捻出するためにバイトにも励んでいると聞いた。ことはも姉の看病をしながら、竹細工を続けているらしい。話を聞きながらも源太は寿司を出してくれた。
「どうだ! 俺のパリ仕込みの味は」源太は自信満々だ。
「あーこれだよ、これ。源ちゃんの味」千明が嬉しそうに言う。
「懐かしいな、普通寿司」流ノ介が真面目な顔で言う。
「ほんまに」ことははいつもの笑顔だ。
「…なんだよ、変わらないってのか」源太が珍しく落ち込んで見せた。
「それが源太の味じゃない? 私は好きだけど?」茉子が笑顔を見せる。
「茉子ちゃ~~~ん」カウンターから茉子に両手を広げて抱きつこうとしたところを流ノ介と千明が見事な連携で阻止した。
「何だよ、お前らのその息の合い方は」流ノ介と千明が顔を見合わせてにやりと笑う。
「源ちゃんにだけおいしい思いはさせないっての」
「お前には100年早いぞ」
久しぶりに会った仲間たちとは話が尽きないと思っていた。が、流ノ介が近く公演があるとかで朝から稽古があるといい、流ノ介の家に泊まることになった千明とことはも一緒になって帰っていき、茉子はひとり屋台に残った。
「さ、飲めよ」源太は日本酒を勧めてくれた。
「ありがと…ん、美味しい」
「いい顔するねぇ。茉子ちゃんに会えたら絶対飲ませたいと思ってたんだ」源太がニヤリと笑う。
「それでこれからどうするつもりなんだよ?」
「お父さんは、はっきりとは言わないけどまだいて欲しいみたい。お母さんは好きにしていいよって。そういう源太こそどうなのよ?」
「まぁ俺はそろそろ日本に戻ってもいいかと思ってたし、このままいるよ」
そんなときふらりと暖簾をくぐる者がいた。
「ごめんよ、今夜は貸切で…丈ちゃん?!」
丈瑠は黙って当然のように茉子の隣に座った。「全く油断ならない」
「丈瑠、体は大丈夫なの?」
「少し休んだから問題ない。それより何だ、この状況は」
源太と茉子は顔を見合わせた。丈瑠は少々機嫌が悪い。
「ごめんな、丈ちゃん。茉子ちゃんが二人っきりになりたいなんて言い出すもんだから」
「源太、もういい加減なこと言わないで」
「…」
「さっきの話の続きだけどさ」
「わたしも帰ってこようかな。ずっと向こうで無職ってわけにもいかないもんね」
「また幼稚園で働くの?」
「元いた職場に帰れるか分からないけど、やっぱりわたし子供が好きだから」
「…そんな話をお前たちだけでしてたのか」丈瑠は茉子の飲んでいた酒を取り上げ一気に飲み干した。
「丈瑠?」
「もうどこにも行くな」
「丈瑠…」
「これから先どうなるか分からない。だけどもう離れ離れはいやだ」
「丈瑠」思いつめた表情の丈瑠の横顔を茉子は見つめた。
源太はそっと屋台を抜け出した。
「いいんですか、親分?」ダイゴヨウがふわふわ追いかけてきた。
「いいも何も茉子ちゃんのあんな顔見たら何も言えないだろ。丈ちゃんだって酒の力を借りたとはいえ、あんなこと言えるとは思わなかったぜ」
「親分、元気出してください」
「提灯に慰められたくないっての」
「今なんて?」
「さてとどっかで時間潰すか」
「付き合いますぜ、親分」さっきより幾分明るく当たりを照らすダイゴヨウを頼もしく思う源太だった。
「丈瑠…」
源太が屋台を出てすぐ、丈瑠はいきなり突っ伏して眠ってしまった。やっぱり本調子ではなく、極度の緊張と強い酒にノックアウトされたらしい。急に倒れたときにはさすがに驚いたが、すぐに寝息が聞こえて、茉子は安心とともに少しあきれていた。
「でもありがとう」
丈瑠は志葉家の当主であり、茉子もまた白石家を継いでいく者だ。それぞれ自らの意志を貫くのには問題がありすぎる。だからこそ気持ちを抑えようとしていた自分に対して丈瑠は自分の気持ちをぶつけてくれた。茉子は自分が着ていた上着を脱ぎ、そっと丈瑠の肩にかけた。「今度はわたしの気持ちもちゃんと聞いてよね」丈瑠の寝顔にそっと語りかけた。