茉子が名門女子高卒業というオリジナル設定で書いてます。女子高生うるさいです。殿茉子前提オールキャラ。
「とりあえず今日は帰るか」
六人でアヤカシの探索に出かけたものの、これといった収穫はなく、志葉邸に向かって歩いていると、向こうから来る女子高生の集団から歓声が上がった。この辺りでは名門とされる中高一貫の女子高の制服で、茉子には見慣れた制服だった。
「キャー、お姉様じゃない?」
「ごきげんよう、お姉…白石様ですよね?」
四人いる女子高生の中で一番長身の女の子が茉子に話しかけてきた。
「ごきげんよう、ってなんかスゲー」千明が隣で面白がって、源太に話しかけている。
「ごきげんよう」茉子がにこやかに返す。
「私達、白石様が高等部にいらしたときに中等部にいてお姉様のロミオ見てました! すごく素敵で、憧れてました」長身の女の子が緊張しながら茉子に話しかけていた。
「ありがとう」
「白石様は今は何をされてるんですか?」長身の女の子の隣にいるおさげの女の子が続く。
「今は仲間と一緒にこの世界を守ってるの…なーんて」
「えー? どういうことなんですか」目の大きな女の子が興味深そうに丈瑠たちをぐるりと眺めまわした。
先程から女子高生達は、茉子が何か言うたびにキャーキャー騒いでいる。
「ここにいる人達はね、わたしにとって大事な仲間なの」
普段クールな茉子がそんなことを言い出し、ポーカーフェイスを保ちながらも丈瑠も内心驚いていた。
「そうなんですか、それでお姉様のいい人はどなたなんですか?」おとなしそうだが、意志の強そうな女の子がそわそわしながら話しかけた。
「え?」
「いらっしゃるんでしょう、お慕いしている方が」
「だってお姉様、以前にも増して美しくなられているんですもの」
近くにいながらも女子の集団に気圧されていた男性陣が一斉に茉子に視線を向ける。茉子は一瞬視線を下げたが、隣に立っていた丈瑠の肘あたりをそっとつかんだ。
「この方に身も心も捧げるつもり」真剣な顔をして、少し芝居がかった感じで茉子が女子高生たちに言った。
茉子の迫力に一瞬静まり返ったが、すぐまた女子高生達は騒ぎ始めた。
「キャー、素敵ですわ、お姉様」
「憧れます」
女子高生の集団は涙を流さんばかりに感動し、二人に視線を向けた。丈瑠は茉子の言葉に照れたのかそっぽを向いてしまった。
「さ、皆さん早く帰らないと門限に遅れてしまうんではなくて?」
茉子がにこやかに言い、女子高生達はなぜか一人ずつ茉子と握手をするとあわてて帰っていった。
「ねーさん、マジ?」
「茉子がそこまで想っていたとは」流ノ介はショックを隠し切れない様子だった。
「茉子ちゃん」ことはがそばに来てギュッと手をつないだ。
「ウチらも早く帰ろ」
女子高生のいる間、ことはは一言もしゃべらずただじっと茉子たちの様子を見ていた。
「ことは、どうしたんだよ?」普段から何かとことはを気に掛ける千明が話しかけると「何でもない!」と怒ったように答えて、茉子にしがみつくように引っ付いている。
茉子とことはが並んで歩き出すと、その後ろを千明がくっついてしつこくことはに何か聞いている。ことはは茉子にくっついたまま、ずんずん歩いている。
「千明も案外不憫な奴だよな」普段から仲間をよく見ている源太が言う。
「まぁことはにしてみれば、茉子が誰よりも大事だからな」流ノ介も自分のことはさておき案外こういうことには目ざとい。
「しっかし、茉子ちゃんがああまで丈瑠のことを想っていたとはねぇ。嬉しいか?」源太が丈瑠に視線を向ける。
「そのことなんだけど、あれは…半分冗談っていうか」茉子が後ろを歩いていた丈瑠たちを振り返った。そして少しばつの悪そうな顔をして申し訳なさそうに言った。
「ああいう年頃の女の子たちはね、喜ぶのよ、そういう設定とか。そうでもしないとあの子たちずーっと帰らなかったと思うよ」
「そうなん?」ぎゅーっとくっついていたことはが腕の力を弱めて、茉子を見上げた。
「わたしがそういう柄じゃないって知ってるでしょ?」茉子はあっさり言うと、ことはと再び手をつないで歩き始めようとした。
「…ちょっと、何?」茉子の腕を丈瑠が掴んでいた。
「ことは、茉子と話があるから先に帰れ、お前達もだ」
「おいおい、丈ちゃん、そんなに怒ってたのかよ?」
「いいから、さっさと帰ろう」流ノ介が何かを察したように源太の肩を組んで歩き出した。千明やことはも後に続く。
「さっきのは冗談なのか?」丈瑠が真剣な目を向ける。
「…冗談というか、ちょっと大げさに言ったけどホントに思ってることを言っただけ!」茉子は照れたように下を向いたが、そっと丈瑠と手をつないだ。
「怒ったの?」茉子がちらりと上目遣いに丈瑠を見た。丈瑠は、何も言わずに指を絡めるように手をつなぎなおし、歩き出した。
「約束は守ってもらおう」
「え?」
「『身も心も捧げる』ってやつだ」丈瑠は前の四人がこちらを向いていないことを確認すると、素早く茉子と唇を重ねた。
「…っ」茉子は一瞬にして真っ赤になり、丈瑠を見つめた。丈瑠は何もなかったように歩き出す。
「キャーッ」とひときわ大きな声がして六人が振り返ると、先ほどの女子高生たちがまだ建物の陰から丈瑠と茉子の一部始終を見ていた。
「お姉さま、お幸せに。ごきげんよう!」女子高生たちは口々に言うとやっと歩き出していた。
「おいおい、なんかあったのかよ?」年上のお姉さま好きの源太は女子高生の騒ぎに少々呆れ気味に言った。
「何もない。帰るぞ」丈瑠は平然と歩き出した。
「姐さんの女子高生時代の話、聞かせてよ」
「えー、特に面白いことなんてないよ」さりげなく手を離し、茉子が前を歩いていた千明達のところへ小走りに近づいて、先程の女子高生と変わらないように明るくはしゃいでいた。
夕暮れの色が濃くなって、丈瑠と茉子が手をつないでいたことと、茉子が真っ赤な顔をしていたことはどうにか誰にも気づかれずに済んだようだ。