PeachRedRum

高梨臨ちゃんのファンです

接触

三十幕の鷹白学園校門前の赤桃。

 

 

 玄関に人の気配がして、見に行くと、そこにいたのは、スニーカーをはいて今にも出かけようとしている茉子だった。

 

「どこへ行くんだ?」

「んー、ちょっと学校にね」

 

 茉子はこちらを見ずにスニーカーのひもを結んでいる。

 

「俺も行く」

「えっ」

 

 茉子は振り向いて俺の顔をまじまじ見た。どうしてそんなに驚く? 俺は茉子と並んで鷹白学院へ歩き出した。

 

「やっぱり、流ノ介とことはじゃちょっと心配」

「そうか」

「わたしだってまだまだ女子高生もいけると思うんだけどなー」

 

 茉子はちらりと上目遣いに視線を向けた。鷹白学園に送り込むのを誰にするか会議をした結果、生徒としても実習生としても実年齢に違和感のない二人が選ばれたのだが、千明も茉子もかなり不安がっていた。

 

「茉子があの制服を着るのか? やめとけ」

「あっそ。別にいいけど」

 

 少し怒ったように前を向いて茉子は歩き出した。茉子が制服姿で学校へ行くなど許可できるか。ナナシは退治できても茉子に群がる男たちをどうやって追い払えばいいんだ。

 

「…でもやっぱりことはにとっては擬似でも高校生になれて嬉しいかな」

 

 ことはの話になると茉子の表情は柔らかくなる。

 

「さぁな」

「丈瑠はどうなの?」

「俺は元々学校はそんなに好きではなかった」

「そうなんだ…なんか珍しいね、こうやって二人なのって」

「あぁ」

 

 二人。あまり探索でも一緒にならない組み合わせだった。だから俺が一緒に行こうとした時に驚いていたのだろうか。

 

「あ、学校が見えてきた」

 

 目の前には鷹白学園が見える。あぁもう終わりか。ろくに話もできなかった自分が情けなかった。茉子は門扉にしがみついて中を覗こうとしている。

 

「教室まで行っちゃおうかな…」

「そんなに焦ることもないだろう」

「そっか、二人のこともっと信じなきゃだめだよね」

 

 門扉に背を向けて寄りかかった茉子の隣で同じような姿勢になった。

 

「ことはも戦いが終わったら高校に行ったらどうかな。ことは、勉強が苦手だなんて言ってたけど、学校ってそれだけじゃないし。仲間がいるって楽しいでしょ? ま、友達あんまりいない私が言っても説得力ないけど、学校に通い始めてからのことはって少し明るくなったと思わない?」

 

 もちろん探索のための編入だったが、ことはも流ノ介もなんだか生き生きして見える。

 

「仲間か…」

 

 なぜだろう…流ノ介たちは大事な仲間だ。だけど俺が茉子へ向ける気持ちは―――

 

「丈瑠を『仲間』なんて言ったら彦馬さんに怒られるかな」

「ジイがそんなことで怒るか」

「でも仲間以上の感情を持ったとしたら―――なんてね」

 

 茉子は学校の方を向いたまま、そんなことをさらっという。俺の手は自然と茉子に伸びていた。なぜだろう、一緒にいるたび、俺は茉子に触れたくなる。

 

「俺も―――」

 

 

「大丈夫かなぁ、ことはも流ノ介も」

 

 茉子が急に言葉を発したので、俺は我に帰り、手を戻す。

 

「気になってんじゃん、姐さんも丈瑠も」

 

 振り向くと制服姿の千明がいた。そして源太もやってきて、うやむやになってしまった。茉子にいつかさっきの言葉のことの真意を問いただそう。俺が茉子に触れたくなる理由もわかるかもしれない。