<寄稿文>第二十七幕の後あたり。殿茉子前提オールキャラ。
千明とことはがアベコンべを倒してくれたおかげで、茉子は同じ姿勢でいることから解放された。奥座敷ですっかり凝り固まった体をストレッチしていると、「茉子ちゃん、これ見て」ことははショドウフォンの待ち受け画面を見せてくれた。
「これ、丈瑠の…?」茉子はぷっと思わず吹き出した。そこには招き猫姿の丈瑠の姿があった。
「さっき千明が送ってくれてん、茉子ちゃんもいる?」
「…ことは、それは消せと言っただろ」二人の後ろから声がした。丈瑠がいつの間にか奥から出てきていた。
「殿様!すみません…」
「ことはにそんな言い方しなくてもいいじゃない」
「茉子ちゃん、怒らんといて。さっきも殿様に言われたのに茉子ちゃんにどうしても見せたくて」
ことはは今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「あー、殿様だからって家臣に高圧的な態度ひどーい」茉子は大げさに言う。
「俺はそんなつもりじゃ…」さすがに丈瑠も焦っていた。
そんなとき茉子のショドウフォンが鳴った。さっと画面を開き内容を確かめると、ことはに優しく語りかけた。
「やっぱり丈瑠との約束は守らなくちゃね。丈瑠の前で消せばいいよ」
「はい…」ことははショドウフォンを操作して丈瑠の画像を消した。
「これでいいでしょ?」茉子は丈瑠をにらみつけた。
「ことは、わたしの部屋に行こ」
「うん!」
茉子はことはの肩に手を置いて奥座敷から去って行った。
夜中、丈瑠の部屋に千明が呼び出されていた。
「お前、あの写真ことはに送ったのか?」
「あの写真って?…あぁ、いいだろ別に…あっ」丈瑠は千明からショドウフォンを取り上げた。
「…ったく横暴だな」
「…!」丈瑠は千明のショドウフォンに保存されている画像の中にある一枚を見て驚いた。
「お前これはなんだ」そこにはパジャマ姿で眠っている茉子の顔があった。
「あぁ前にことはにもらった」
「お前たちいつもこんなことしてるのか?」
「いや、何かさ、ことはが『茉子ちゃんかわいいやろ』って時々送ってくれるんだよ」
「ことはは流ノ介や源太にも送ってるんじゃないだろうな?」
「そりゃまぁ頼まれれば送ることもあるだろ」千明は少しニヤニヤしながら続けた。
「え?知らなかったの?家臣とはもっとコミュニケーション取らなきゃダメだろ」
「茉子は知ってるのか?」
「さぁね。丈瑠が聞いてみたら?」丈瑠のスキを見逃さず、千明はショドウフォンを取り戻して逃げ出そうとした。
「油断大敵。じゃあな」
「待て!」そこは丈瑠の方が一枚上手で千明の着ていたパーカーのフードを引っ張り、千明を引き戻した。
「何すんだよっ!」千明が激しくせき込んだ。
「…その写真よこせ」
「は?」
「俺の写真の事はもういい。その…茉子の写真」
「へぇ~丈瑠って姐さんのこと苦手だと思ってた」
「流ノ介じゃあるまいし白々しいこというな…よこせ」
「しょーがねぇなぁ」取引は成立した。
それから数日後、茉子は奥座敷でくつろいでいた。いつもまとわりついてくることはは今日は千明とケーキを食べに行っていた。読んでいた雑誌をそばに置いて何となくショドウフォンを開いてみる。
「ふふっ」やっぱり笑みが漏れる。あの日、ことはにもらうはずだった招き猫姿の丈瑠の写真は千明から送られていた。
「何を一人でニヤついているんだ」
「丈瑠、いつからいたのよ?」丈瑠が茉子の前に立っていた。
「何を見てるんだ?」
「ことはからもらったわけじゃないからね」茉子は丈瑠の写真を見せた。
「ふん、それか」
「あれ? この前みたいに言わないの?」
「そんな写真の何が面白いんだ」
「だってかわいいじゃない?」隣に座った丈瑠の顔を覗き込みながら茉子は笑う。
「…まぁ確かにかわいいかもな」丈瑠はおもむろに自分のショドウフォンを開いて見せた。
「それ…」茉子は驚いて目を見開いた。なんで丈瑠が自分の寝顔の写真を持っているのか訳がわからなかった。
「おあいこだ」
「そんな写真誰から?消してよ!」丈瑠はショドウフォンを持った手を伸ばした。
茉子はその手を掴もうと丈瑠に抱きつくような姿勢になった。
「あっ」バランスを崩した茉子がそのまま丈瑠の胸に顔をうずめ、とっさに丈瑠は茉子の体を支えた。
「ごめん」
「いや」二人は急に気まずくなって体を離した。ふと視線を感じて、入口を見るとボーっと立ち尽くす流ノ介とニヤニヤ顔の源太がいた。
「流ノ介?」「…お邪魔して申し訳ございません!」急に眼が覚めたようにいつものハイテンションの流ノ介が謝った。
「見てたでしょ、違うって」茉子はあわてて弁解した。
「見てた見てた、人気のないところで二人きりで何してんだよ?」
「源太、変な言い方しないで!」
「ちょうどいい。お前たちに聞きたいことがある」丈瑠は真剣な顔で二人に近づいて行った。
「何ですか?殿」
「お前たちもこれを持っているのか?」先程の写真を見せている。
「え、えぇまぁ」流ノ介はしどろもどろに答えた。
「流ノ介が何で?」茉子も丈瑠たちの輪に加わる。
「いや~俺はこっちの方が好きだな」源太が見せたものは、茉子の風呂上りで上気した顔だった。
「…ことはなのね」茉子はがっくりとうなだれた。ことはがしょっちゅう茉子にカメラを向けることは知っていた。
「私はどちらかというとこちらの方が」流ノ介が負けじとウエディングドレスで輝くばかりの笑顔の茉子を見せた。
「ことはに無理やりやめさせるようなことはしないよな?」丈瑠が言う。
「やめさせるもん!」茉子は真っ赤になって答えた。
「ただいまー」そこにちょうど千明とことはが帰ってきた。
「何なにどしたの?」千明が年長組をぐるりと眺め回す。
「ことは」茉子は思い切り優しく声をかける。
「わたしの写真のことだけど、二人だけの秘密にしよ。わたしはことはにだけ見せてる表情なんだよ」
「茉子ちゃん…そうなんや。千明がみんなにも見せてあげたら喜ぶって」
(内幕は千明だったのね…)静かににっこり千明に微笑みかけると、千明は震え上がった。
「ねぇ今日のケーキどうだった?」茉子はことはを促して奥座敷から出て行った。
「…俺、殺されるかも…」千明は青ざめている。
「ちっ、これからことはちゃんから写真もらうのは難しいか」源太が残念そうに言う。
「いや、何か策はあるはずだ」流ノ介が真剣な表情を見せる。
「そんなことよりお前たちまずは俺にその写真を全部送信しろ。話はそれからだ」
その日、男たちの作戦会議は夜遅くまで続いた。