赤桃前提オールキャラ。タイムレンジャー26話のエピソードを参考にしました。三十幕後くらい?
「幸せなことだよね」アヤカシを倒した帰り道、ぽつりと茉子がつぶやいた。
「何が?」隣で歩いていたことはが反応した。
「こうして戦いが終わって帰ると彦馬さんや黒子さん達が待っていてくれるでしょう? それってすごく安心することだと思わない?」
「うん、そうやね」
茉子は少しだけ昔のことを思い出す。両親のいない広い家。祖母に厳しく侍として育てられたこと。学校には通っていたが、学校が終わればすぐに侍の稽古で友達と寄り道なんてまるで考えられなかったこと。そんなことを少しだけことはに話したことがあった。流ノ介や千明から時々相談めいた話をされたことはあっても、茉子からなかなか話すことはできなかった。あまり弱みを見せたくないという思いが強かったからだ。だけど、ことはには何だかすんなり話せてしまう。余計なことを言わないことはは話を聞いてくれるだけでいい。
「わたしも一度やってみたいと思ったこともあったんだけど」
「茉子ちゃん?」
「お帰りって言って出迎えるの。何だか普通のお嫁さんっぽくて…あ、柄じゃないよね」
「ううん。何で? ねぇやって」
「え、今から?」
「茉子ちゃんが先に帰ればいいんやから、ね? うちも茉子ちゃんにお帰りって言われたい」
軽い冗談みたいなつもりだったが、そんなことになった。茉子は前を歩いていた丈瑠達を追い抜いて走り出す。
「ことは、姐さんどうしたんだよ?」
「うん、先帰るって」
「ふうん?」
志葉邸の玄関に茉子は立っていた。丈瑠を先頭に5人は歩いてくる。
「茉子ちゃーん」ことはが走り出して、茉子の前で立ち止まる。
「ことは、おかえり」茉子はにっこり笑うとことはを抱きしめた。
「茉子ちゃん、ただいま」ことはに追い越された男たちの動きが止まり、お互いの顔を見合った。
「おぉ! 今日は茉子ちゃんのハグつき!!」一番に食いついたのは源太だった。いつもは店を開く時間で志葉邸に寄ることはないのだが、茉子の動きを不審に思い、そのままついてきたのだ。
「源太、おかえり」茉子が笑顔で両手を広げる。
「おぅ! 帰ったぜ!」源太がものすごい勢いで茉子に近付いたとき、源太のジャケットの襟を丈瑠が思い切り引っ張って、ものすごい力で投げ飛ばした。
「っ痛ぇ! 丈ちゃん、なにすんだよっ」丈瑠は無言のままどんどん茉子へ近付き、茉子を抱きしめた。
「丈瑠? おかえり。無事でよかったね」茉子は何とか用意した言葉をかけたが、丈瑠はなかなか解放してはくれなかった。ぎゅうっとさらに力を込め、茉子を抱きしめると耳元で囁いた。
「ただいま。でももうこんなことはやめろ」やっと体を離すと、今度は茉子の手首を引っ張って、さっさと家に入ってしまった。
「いたたたた…ったく独占欲の強い殿様だなぁ。いっつも一人占めしてんだからたまにはいいじゃねぇか」源太はぶつぶつ言い、ことはは源太の土埃を払い、流ノ介は心底残念そうな顔をした。
「千明、残念やったね」
「あー、まぁいや…」ことはに声を掛けられて、千明はひどく緊張していたことに気がついた。
一方、先に家に入った茉子は丈瑠に文句を言っていた。
「もう、どうして丈瑠ってそういう…」
「茉子がそういう癖があるんだと理解している。だがな」
「誰かが出迎えてくれるのっていいなって思ったから」
「あそこまでしなくていいだろう」
「でもお母さんってああいうものじゃないの?」
「…さあな」
「…ごめん」家族の縁が薄い2人には母親というものがよく分からなかった。
「とにかく、茉子は母親とは違う。ことはだけにしておけ」
「ことはだけでいいの?」
「…茉子だって一緒に戦っている。お前がみんなをねぎらう必要なんかない」
「そんなの分かってるよ」
「おぉ殿、お帰りなさいませ」奥から彦馬や黒子が出てきた。
「あぁ今帰った」彦馬や黒子に声を掛け、丈瑠は奥に引っ込んでしまった。
「もう! 話の途中でしょ」
「まぁまぁ茉子ちゃん」いつの間にか源太達も玄関に入ってきた。「さ、続きを」
「げげげ源太!」流ノ介が慌てた。
「俺なんて帰ればひとりなんだし丈ちゃんより権利はある」
「源太、お帰り」ふわりといい匂いがして源太の体を茉子が包み込んだ。
「!!!」
「流ノ介、お帰り」
「!!!」
「千明?」千明はすっと体をかわした。
「あー俺は今度でいい!」慌てて靴を脱いで屋敷に入って行った。
「源太? 流ノ介?」真っ赤な顔をして動かなくなった2人がいた。
「源さんも流さんも元気になったと思うわ」ことはがのんびりといい、茉子の手を引き、屋敷へ促した。
奥座敷に平然と座る丈瑠を横目に千明も席についた。…丈瑠、よく人前であんなことできるよな。
「あ~お腹空いたね~」茉子がことはと奥座敷に入ってくる。丈瑠がちらりと視線を送り、茉子がその視線を受ける。何なんだよ、あいつら。千明も真似してことはを見てみた。
「何?」ことはがニコニコと近付いてきてくれた。ま、いいか。そういや流ノ介達どうしたんだろ? ま、いいか。