ゴーバス青黄。ライアー×ライアーという漫画が面白くてその設定を借りました。
「ハイ! できました」
「わぁ~」ヨーコは別人になったような自分の顔を見て驚いた。
新人オペレーターの仲村は年齢が近いこともあってすぐにヨーコと仲良くなり、休みの日など一緒に過ごすことも多くなった。今日は仲村の部屋で服を貸してもらい、その上メイクをしてもらった。いつもノーメイクのヨーコにつけまつげや巻き髪をしている仲村もまた嬉しそうだ。
「仲村さんメイク道具たくさん持ってるんだね。でもこの洋服とかメイクとか来てるの見たことないよ」
「ホントはこういうメイクしてみたいんですけどね」ニコニコと仲村はヨーコを見ている。
「それにヨーコちゃんの方が似合います」
「そうかなぁ」
「これで外を歩いてみたらどうですか?」
「えぇ? でも…」
「たまの休みだしいいじゃないですか」
シューターハッチから外に出ると、休日の街は人でごった返していた。仲村としばらくウインドウショッピングを楽しんでいたが、仲村がたまたま昔からの友人に出会ったので、ヨーコは別行動をとることにした。しばらくひとりでぶらぶら歩いていると人にぶつかって尻餅をついてしまった。
「すみません」手を差し出してきたのは、リュウジだった。
「ん、あれ? ヨーコちゃん??」
ヨーコはこんな姿でいるのを知られたことが恥ずかしく、差し出された手を無視して立ち上がった。
「…誰、ですか?」
「え?」
「…」
「…」しばらく無言でまじまじヨーコの顔を見ていたリュウジがやっと口を開いた。「すみません、知り合いに似てたから。どこか怪我してませんか?」
「別に大丈夫です」
「一人なんですか?」
「え?」
「これから誰かと会うとか?」
「別にそんなじゃないけど…」
「じゃこれからちょっとだけ俺と遊びませんか?」
ナンパ? リュウさんってナンパとかするんだ! ヨーコは少なからずショックを受けていたが、普段、リュウジがどんな休みを過ごしているのか知らなかったので、興味が湧いた。
「少しだけなら」
「じゃ行きましょうか」リュウジがにっこり笑った。
二人で街を歩く。リュウジは背が高く、目立つ。周りの目が気になった。
「いつもこんなことしてるんですか?」
「こんなこと?」
「女の子に声かけたり…とか」
「いえ、あまりかわいい子だったのでつい」リュウジはさらっと言ってのけた。なぜだかヨーコの心がざわついた。
リュウジは街の片隅の落ち着いた雰囲気のカフェに入っていく。ヨーコも後に続くとコーヒーの香りが店中に漂っていた。顔見知りらしいマスターと一言二言交わすリュウジがいつもと違って見えた。
「ここはね、パフェが美味しいんです」
「え? でも」
「甘いもの食べたくありませんか?」今日はまだエネルギー補充をしていない。もしかしてリュウさん、気付いているのかな? ヨーコがそう思っていると、リュウジは、コーヒーとパフェを注文してヨーコに向き合った。
「そういえばまだ名前聞いてなかったですよね。俺は岩崎リュウジって言います。あなたは?」
「…ええと、ミホ、です」とっさに仲村の名前を口に出していた。
「ミホさん、かぁ。かわいい名前ですね」リュウジの笑顔になぜかもやもやした。
程なく注文したものが届き、ヨーコはパフェを食べ始めた。
「おいしい!」
「でしょ?」いつもと同じように笑顔を向けてくれているのに、リュウジに対して違和感があるのはなぜなのかヨーコはまだ分からなかった。
「…あの、さっき知り合いに似てるって言ってましたよね。どんな子なんですか?」
「今はいいじゃないですか。ミホさんと話してるのに他の子のことなんて」
他の子。
「でもすごく似てたみたいだから」
「ミホさんはどうして今日はひとりだったんですか?」
「友達と一緒だったんですけど、別行動とることになって。リ…岩崎さんこそ何を?」
「リュウジでいいですよ。今日は久しぶりの休みだったので買い物してました」あ、と言ってリュウジは紙ナプキンを差し出した。口の脇にクリームがついていたらしい。ありがとう、とお礼を言い、ヨーコはクリームを拭いた。
「世話のかかる子なんです」
「?」
「ミホさんに似てる子。俺よりずっと年下なんだけど、天才的な才能があって…生意気な口を聞くこともあるし、要領のいいところもある」窓の外の通行人を眺めながらリュウジが語りだした。「最近、よく分からなくて。小さい頃から一緒だから家族みたいなものだと思ってたんです。でも」
「でも?」
「仲間だとしても他の男と話してるのとか気に入らないし、休みの日にこうして一人でふらふら歩いているのも心配だし」リュウジは飲みかけのコーヒーを一気に飲んで、ヨーコの顔をじっと見た。
「…ヨーコちゃん、でしょ?」
ヨーコは黙ってうなずいた。「ごめんなさい」
「こんな風に声かけられてホイホイついてくるなんて」リュウジはため息をついた。
「だってそれはリュウさんだから! リュウさんこそ女の子ナンパして」
「ヨーコちゃんがどういうわけか他人のフリをしたからだよ」
「でもいつもと全然違う顔してるのによく分かったね」自分でも驚いたくらいなのに。
「分かるよ。好きな女の子の顔くらい」リュウジはさっきから怖いくらい真剣な顔をしている。
「さっき話しててリュウさんが他の女の子と話してるみたいでイヤだった。あの笑顔も優しさも”ミホさん”に向けられたものだったから」ヨーコは言いながら真っ赤になってうつむいた。
「少しは妬いてくれてるんだ?」リュウジが悪戯っぽく微笑む。
「当たり前でしょ!」
「そろそろ帰りましょうか、ミホさん?」
「もうっやめてよ」
店を出ると、リュウジが手を差し出してきた。「せっかくヨーコちゃんもおめかししてデートっぽいから」ヨーコはリュウジと手をつないだ。こうして手をつないで歩くなんて何年ぶりだろう?
「ねえ、今度はちゃんとデート、しよ」
「そういう服も髪もよく似合ってる…でもあんまり他の男の目には触れさせたくないかも」