PeachRedRum

高梨臨ちゃんのファンです

戸惑い

Mission11~12くらいの青黄。

 俺はおかしい。絶対おかしい。岩崎リュウジは最近の自分の感情に戸惑っていた。この気持ちはきっと妹に悪い虫がつかないように見張る兄なんだ。決して決して恋心などではない。リュウジはもう30手前で、その子はまだ未成年だ。

 13年前のクリスマス、当時15歳のリュウジはたまたま転送研究センターにいた。両親や母親がそのセンターで働いていて遊びに来ていた子供達と共にプログラムを移植され、人にはない力を手に入れ、特殊な環境で育った。8歳年下のヒロムは姉に引き取られたが、リュウジとそして一回り近くも歳の違うヨーコとは家族同然にいつも一緒だった。そんな子供をだぞ? そんな…

リュウさん、聞いて! ヒロムったら酷いの!」休憩スペースにいたリュウジにヨーコはヒロムがいかに酷いか熱弁している。13年振りに戻ってきたヒロムは、意志の強そうな青年に成長していた。そのまっすぐすぎる言葉が時に誤解を招くこともあり、ヨーコとはしょっちゅう衝突していた。

「もう! リュウさん聞いてるの?」最近、妙にイラつくのはヨーコの口からヒロムのことしか出てこないことだった。ヒロムはヨーコを子供扱いしていたが、リュウジから見ればヒロムとヨーコは同世代の男女で、常に大人に囲まれて育ったヨーコにすれば初めて対等に話せる人間が出来て楽しそうにすら見える。

リュウさんてば!」ヨーコに腕をぐいと掴まれた。大きな目でぐっと睨みをきかせているが、子供の頃からほとんど変わっていない顔に思わず笑ってしまう。

「ヒロムも、そう悪い奴じゃないんだよ。仲良くしてよ、ね」リュウジがいつものようにヨーコの頭を撫でた。ヨーコは頭に乗った手を払いのけると、怒って行ってしまった。

リュウジさん、ヨーコに甘すぎませんか?」ヨーコと入れ替わるようにヒロムがやって来た。

「そうかな」

「そうですよ。リュウジさんがヨーコにもっとちゃんと言って下さい。リュウジさんの言うことなら素直に聞くんですから」

「そんなこともないよ」昔は俺の後ろばっかりくっついてたっけ…。「ヨーコちゃんはヒロムが戻ってきてずいぶん楽しそうに見えるよ」

「何言ってるんですか。恋人ならちゃんと…」

「こ、恋人ってなんだよ」

「付き合ってるんでしょ、リュウジさんとヨーコって」

「何言ってんだよ、俺とヨーコちゃんは年が…って何言うんだよ」

「ヨーコだって認めたし」

「はぁ? ヨーコちゃんが?」

「そうですよ。じゃ、ちゃんとヨーコに言って下さい」ヒロムはそう言い残すとさっさと出て行ってしまった。

 ヨーコちゃんが俺と恋人同士だとヒロムに言ってた? 口論になったときに売り言葉に買い言葉みたいなものだよな、そうだよな、自分で納得させることにした。自室に戻ろうと廊下に出るとヨーコが立っていた。

リュウさん、さっきヒロムと何話してたの?」

「何って…ヨーコちゃん、ヒロムに何か俺達のこと誤解させるようなこと言ってない?」

「何のこと?」

「だから、俺とヨーコちゃんがこ…イヤ、とにかくヒロムに嘘はよくない。俺達は仲間なんだから」

「ウソなんて言ってない。でもそうなったらいいなと思ってる」ヨーコが真剣なまなざしを向けた。「ずーっと昔からだよ、リュウさんは全然本気にはしてくれなかったけど」

 確かにヨーコは昔から好きだとよく言ってくれた。だけど、それは一緒に育った家族の情の延長だと思っていた。かなり大きくなってからも一緒のベッドで眠ったこともあった。

「昔っていつから?」

「中学生のときくらいかなぁ。でも何か本気っぽく言ったら引かれそうで…って引いてたでしょ?」

「そうかもね」確かにリュウジにとってほんの少し前までヨーコは妹のような存在でそれ以上ではなかった。

「今は? 今でも引いちゃう?」

「こういう場合、引かれるのは俺の方なんじゃないかな」

「どうして? 私が好きなんだよ?」ヨーコの頭を撫で、抱き寄せた。ヨーコが幸せそうな顔で胸に顔をうずめ、背中に手をまわして来た。俺はやっぱりおかしいのか? だけどすごく幸せだ。

 ふたりで廊下を歩いているとヒロムに出くわした。ヒロムには思いきり呆れ顔をされた。「仲良いのはいいんですけど、あんまり人前でいちゃつくのはやめてください」

「何よ、ただ歩いてるだけじゃない」ヨーコはリュウジに体を寄せ、腕を組んだ。

リュウジさん、ニヤけすぎです」「俺?」「そうですよ、リュウジさん顔に出過ぎです」ヒロムが去った後、ヨーコが何も言わずにまだ腕を組んでいた。

「どうしたの?」「嬉しい」満面の笑みでリュウジの顔を見上げた。

「でも俺、少し自重しないとな」リュウジは襟を正した。「ジジュウ?」

「そ。せめてヴァグラス倒すまではヨーコちゃんのいいお兄さんでいるよ」

「えーっ」ヨーコが不満顔をする。「でも、いい。私もさっさとヴァグラス倒す」

「頑張ろう、ヒロムと一緒にね」「んー、分かった」ふふふと顔を見合わせて笑う。

 ヒロムが来てリュウジとヨーコに新たな関係が生まれようとしていた。