PeachRedRum

高梨臨ちゃんのファンです

すれ違い

青黄。高校に編入し、通い始めたヨーコ。

リュウさん、ただいま」高校の制服姿のヨーコが勢いよく研究室のドアを開けた。リュウジは白衣姿で机の上で突っ伏して寝ていた。「また寝てる」ヨーコは頬を膨らませた。エンターを倒して亜空間を消滅させた後、ヨーコは高校に編入し、リュウジは一人前のマシンエンジニアになるために修行中だ。

 今まで通り同じ場所に暮らしているのに、最近のリュウジは徹夜続きでヨーコと顔を合わせることが少なくなった。夜、リュウジの部屋を訪ねても、部屋にいないことも多い。話したいことがあったのに。ヨーコはリュウジの肩に毛布をかけ、部屋の明かりを落とすと、そっと部屋を出て行った。

 リュウジは自分の好きな仕事がやれているのが楽しかったし、毎日輝くばかりの笑顔で学校の話をするヨーコを見るにつけ、いたたまれなくなった。最近になって小さな世界にヨーコを閉じ込めようとしてるのではないかと思い始めた。そのうち無邪気な顔で恋人ができた、なんて聞かされるんじゃないだろうか。そんなときに笑顔で『おめでとう』と言える自信は、ハッキリ言ってない。ヒロムがやって来た時もそうだった。独占欲が強いのだと自覚がある。

  もう朝方になろうという頃、リュウジは一旦部屋に戻ろうと廊下を歩いていると、部屋着のヨーコに出くわした。そうか今日は日曜日か。休みもろくにとらず、日にちの感覚が分からなくなってきていた。

「おはよう」と声をかけると、ヨーコは怒ったような鋭い視線を向けた。

「今から寝るの?」「うん」リュウジはヨーコの頭に手を乗せた。

「話したいことがあるんだけど」

「あー、ごめんちょっとだけ寝させて」

「…告白された」ヨーコが意を決したように話した。

「え?」

「隣のクラスの男の子に『好きだ』って言われた」

「うん」

「どうしたらいい?」

「それはヨーコちゃんが決めることだから」にっこり笑うとポンポンと頭を叩いて、部屋に戻った。ヨーコは追いかけてこなかった。

 リュウジとヨーコは恋人関係にあると言ってもいい。エネルギー管理局で働く人間は大抵知っていた。特にリュウジは黒木司令官に付き合うこと自体は許されたが、くれぐれもヨーコを大事にしろと顔を合わせるたびにくどいほどくぎを刺されている。

 部屋に戻ったリュウジは、シャワーも浴びずにベッドに寝転び、そこで意識がなくなった。夢を見た気もするがそれも忘れてしまった。

 目が覚めたとき、大の字に寝ていたリュウジのわきの下にヨーコが丸まって寝ているのを見つけた。部屋のドアにカギがかかっておらず、勝手に入って来たのだろう。顔を見ると、幼い寝顔に涙の跡がついていた。涙の後を拭こうと、頬に手を当てると、ヨーコが目を開け、頬に乗せられたリュウジの手に自分の手を重ねた。

リュウさんは優しいけど時々不安になる」

「そうかな」

「最近はそんなに優しくないし」ヨーコは上目遣いにリュウジを見た。

「…」

リュウさんは私が他の男の子と付き合ってもいいと思ってるの?」

「ヨーコちゃんがそれでいいならね」

「いいわけないでしょ! 何で、何でリュウさんってそんな言い方するの?」ヨーコは大きな目に涙を浮かべていた。

「ヨーコちゃんには幸せになって欲しいんだよ」

リュウさんと一緒にいるのが私の幸せなのに。避けるようなことしないで」

 リュウジはヨーコを抱き寄せようとするとヨーコは顔をしかめた。

「…リュウさん臭い! 髪もボサボサだし、ヒゲも生えてるし…」リュウジは苦笑を浮かべた。

「シャワー浴びてくる…ヨーコちゃんも一緒に浴びる?」

リュウさん!」ヨーコは真っ赤になっている。

 リュウジがシャワーを浴びて、さっぱりとして部屋に戻るとヨーコはまたベッドの上で眠っていた。子供のような寝顔にそっと頬をなで、おでこにキスをした。

「別の場所でもいいんだけどな」眠っていたと思っていたヨーコが目を開けた。リュウジは今度は優しく口づけをした。

 これからも要らない心配ばっかりしてしまうだろう。でもずっとこの子と一緒にいたいなぁ。舌を入れるとヨーコは驚いていたが、リュウジはまだやめる気はなかった。