PeachRedRum

高梨臨ちゃんのファンです

指定席

源太が仲間になった直後の赤桃。少しだけ金→桃っぽい描写あり。

 

 

 あ、やっぱり。今日で確信に変わった。

 

 シンケンジャーとして丈瑠たちと行動を共にすることになって、探索に出たものの成果が出なかったときは、すぐに屋敷に戻らず時々ファミレスで軽くお茶して帰ることがある。真面目な作戦会議になることもあれば、くだらない無駄話に長時間費やすこともあった。全員で集まることもあれば、二、三人のこともあり、その形態は様々だった。

 

 今日の場合は、梅雨の晴れ間で昨日までの天候とは打って変わり、酷く蒸し暑くなったせいで、ひとまず休憩しようということになった。最近、仲間に加わった源太とともに六人で店内に入った。茉子は、何度かこういうことがあるたびに疑問に思うことがあり、今回はわざとゆっくり入り、みんなが席につくのを待とうとした。

 

 だが、丈瑠が「茉子」と呼び、目で席を指す。まるでさっさと座れ、というように。

「いいよ、私は」今日は敢えて抵抗してみた。丈瑠は、基本的にポーカーフェイスだったが、それでもムッとしているのが分かった。

「早くしろ」有無を言わさぬ強い調子で言う。

「…うん」茉子が三人掛けのソファの奥の席につくと丈瑠が隣に座る。茉子が疑問に思っていたのはこれだった。初めはただの偶然だと思っていた。茉子がたまたま先に店に入り、奥の席に座る。その隣に丈瑠が座る。それが何度か続いた。なぜかそれが決まりのようになっていて、茉子が最初に壁際や窓際など奥の席に座る。

 

 丈瑠は茉子が逃げないように、あるいは誰か他の人の隣になるのを阻止するように壁際に追いやる。茉子は常日頃から丈瑠に避けられているように感じていたし、さりとてこうして隣同士になったところで丈瑠に何か話しかけられることもないことが不思議でならなかった。茉子から話しかけてもいつものように短く返事をするだけだった。これは好意なの?

 

 だが、今日がいつもと違ったのは「いやー、こんなきれいな人とじっくり話してみたかったんだよなぁ」と源太が茉子の向かい側に座ったことだった。向かい側に来るのはことは、というのも徐々に定番になっていた。

「茉子ちゃんって、きれいだよなぁ。許婚とかいるの?」

「はぁ?」突然の質問に飲んでいた水をこぼしそうになった。隣にいる丈瑠の体が少し反応したように感じた。

「イヤ、だってこんな美人さんだろー? やっぱ俺のような平民とじゃつり合いとれない?」

「源太、いきなり何を言いだすんだ!」源太の隣に座った慌てて流ノ介が大きな声を出した。

「あーもう、お前らうるさいよ」今日は丈瑠の隣にいる千明は注意しながらもどこか楽しそうだ。

「あのねー、わたしはそんな立派な身分の人間じゃないから」茉子はあきれつつ返事をした。

「そうなんだ、じゃ俺にも少しはチャンスがあるってことか」源太はにやりと笑うと茉子が机の上に置いていた手に源太が手を伸ばしかけた。

「…」そんな源太を丈瑠は何も言わずに手で制した。

「なーんだよ、冗談だよ、冗談」源太は丈瑠に笑いかけると、少し驚いたような顔をして、それ以降は、茉子に話しかけることもなく流ノ介と話しだした。

 

 源太、どうしたんだろ? そのあと、ぽつぽつ頼んだものが届き始めて、軽い食事をしながら今回は雑談の日になってしまった。隣って不便だな、と茉子は思っていた。近くにいるのに様子をうかがい知るのが難しいからだ。今日だっていつもと同じ。丈瑠は茉子に話しかけるわけでもなくアイスコーヒーを飲んでいる。源太たちの話が盛り上がるなか、小さな声で独り言のようにつぶやく。

「丈瑠はわたしをどうしたいの?」やっぱり返事はなかった。源太や流ノ介がうるさくて聞こえてないとは思うけど。

 

 源太が屋台があると言ってファミレスを飛び出し、丈瑠たちもそろそろ出ることにした。前を歩く流ノ介と千明が軽い言い争いをしている。ことはが止めに入って、あぁ、私も行かなきゃ、と茉子も一歩前に踏み出そうとした時、丈瑠に肩を軽くつかまれた。振り向くと丈瑠は無言で首を振った。千明たちはいつの間にかことはを交え、楽しそうに笑いあっていた。

 

「私の席って決まってるの?」丈瑠に聞いた。

「当たり前だ」丈瑠は茉子の方を向くでもなく、前の三人を見ている。

「何よそれ」

「茉子の隣はいつだって俺だ」

「誰がそんなこと決めたの?」

「俺だ」

 

 丈瑠はもうそれ以上話してくれなかった。いつも避けるくせに、話してくれないのに、隣は俺って、なにそれ。ホントに意味が分からない。

 

 後日、「それにしてもあんときは怖い顔してたよなぁ」源太がたまたま探索が一緒になった時に教えてくれた。茉子に話しかけた源太に丈瑠は今まで見せたことのないくらいの怖い顔を見せたことを。

「丈ちゃんのこと、よろしくな…なんて」源太が笑いかけたが、何かに気付いてすぐに笑顔が消えた。

 

 目の前を丈瑠が歩いてきた。源太を一瞥すると「帰るぞ」と低く言い、歩き出した。茉子は追いついて丈瑠に並ぶ。

「仲間なんだからやきもちやいちゃダメだよ」うぬぼれかもしれないけど、そんなことを言ってみる。また無言かな。

「…仕方ないんだ。どうしても顔に出てしまう」やっぱり茉子を見ずに丈瑠は言った。丈瑠の顔を見上げると、少し照れているようにも見える。

「こうして隣にいてもいいってこと?」

「あぁ」

 

 なんてわかりづらい人。なんてわかりやすい人。茉子に合わせるように丈瑠が歩を緩める。丈瑠と茉子は並んで歩き出した。