PeachRedRum

高梨臨ちゃんのファンです

寝坊

殿茉子。夜伽の続きです。

 

 

 茉子はとても幸せな気分で目覚めた。極度の寒がりなのに何で今日はこんなに背中が暖かいんだろう。ぼんやり目を開け、後ろを振り返ると静かな寝息を立てる丈瑠の顔があった。

「!」どうしてこんなことに? 混乱していたが、だんだん昨夜の記憶が蘇った。ケガをした丈瑠を見舞いに部屋を訪れ、手を取られ、丈瑠はそのまま眠ってしまい、手を離せなくなってしまった。気を利かせた黒子が丈瑠の布団の隣にもう一組布団を敷いてくれたが、今は一つの布団にすっぽり包まって眠っていた。

「ん…」丈瑠はまだ寝ぼけているのか、茉子の後頭部に顔をうずめるように一層強く抱きすくめた。その上、茉子の腹の前で組んでいた腕を伸ばし、胸の上に置いた。すー、すーと寝息が聞こえるので無意識なんだろう、だろうけど…茉子はひとり顔を赤らめる。恥ずかしくて丈瑠の手の上に自らの手を重ねて、そっと下にずらす。茉子の手は丈瑠の手に重ねたまま、茉子はそっと目を閉じ身を委ねる。

 丈瑠の手がごそごそと動き始めて、茉子は再び目を開けた。

「悪い、起こしたか」

「さっきから起きてたから」

「そうか」丈瑠はかなり密着した状態で肩越しに話しかけてくるので、息が首筋にかかり、茉子は身悶えしそうになるのを必死に堪えた。

「そう我慢するな」ペロッと丈瑠が茉子の耳を舐めた。

「ひゃっ」茉子の口から思わず声が出て首をすくめた。

「もう、部屋に戻るから」丈瑠の体から抜けようとするが、足まで使ってガッチリと押さえつけられた。

「ちょっと丈瑠ふざけないで!」

「まだ起きるには早い」

「そこはイヤだって…」丈瑠が耳を舐めたり、軽く噛んだりしている。

「んん…もう…」ゾクゾクして上手く体に力が入らない。丈瑠は力を緩めると、くるりと茉子の体を自分の正面にした。

「離して欲しいか?」

「ずいぶん元気なのね?」皮肉っぽく言い、悪いとは思ったが、ケガしてる個所を攻撃した。

「っ痛ぇ…」

「調子乗り過ぎ」茉子は、黒子が茉子のために敷いてくれた布団をさっさとたたみ始めた。

「茉子」

「ん?」丈瑠は布団を畳んでいる茉子をじっと見つめている。

「…ごめん」

「わたしもごめん」茉子は手を止めて、丈瑠を見た。

「…」丈瑠はまだ何かを言おうとして躊躇している。この間からずっとそう。だけど、茉子から聞くことはなかった。自分の気持ちを押し付けるんじゃなくて、丈瑠から話してくれるまで待たなきゃ。布団を畳んで部屋の隅に運んだ茉子は、丈瑠に近付くと自分から軽く唇を重ねた。

「じゃ部屋に戻るから」茉子は笑顔を見せた。丈瑠は驚いて、少し照れたように目をそらした。

 

(何よ、さっきはそれ以上のことしておいて)茉子は丈瑠の部屋をそっと出た。まだ薄暗い。さすがに流ノ介も起きてなくて、鉢合わせする心配もないだろう。部屋に戻り冷たい布団に体を入れる。胸に手を当てるとまだドキドキしている。

「丈瑠…」茉子の口から溜息のように漏れた。荒々しい息遣い、抱きしめられた力強さ、ギュッと目を瞑り、それを忘れようとした。

いつのまにか寝入ってしまった茉子は、ことはに起こされて稽古に出た。

「珍しいなー、茉子が寝坊なんて」流ノ介や千明にからかわれて、思わず縁側で座って稽古を見ている丈瑠をにらんでしまう。丈瑠はいつものポーカーフェイスで茉子を見、微かに口角を上げた。唇を軽く噛み、俯いて指で唇をそっとなぞる茉子に、丈瑠の心臓は跳ね上がり、茉子に見せたようなポーカーフェイスを保つのに必死だった。