Mission12~13くらいの青黄。
屋上から街を眺めると点在するエネトロンタンクが見える。リュウジも高校生まではあんなエネトロンタンクのそばに住んでいてメガゾードをいつも見ていた。いつか自分もマシンエンジニアになってメガゾードを作るんだ、そんな夢を持っていたこともあった。13年前のあの日、すべて変わってしまったけど。
ワクチンプログラムによって特殊な能力を身につけることになり、ヒロムやヨーコとこの世界に残された。ヒロムは、リュウジとほとんど年の変わらない姉が自宅に引き戻した。いっぺんに両親が行方不明になって、その上、弟も、となれば心情は理解できる。
リュウジはヨーコと特命部やバディロイドに囲まれながら育った。たくさん愛情を受けて育ったけれど、ヨーコの夢がないという言葉にはっとした思いがした。
「リュウさん、ここにいたの?」ヨーコの声がして振り返った。ニコニコしながら近づいてきて、突然、ゴリサキの喜びそうなところはどこ?なんて聞いてきた。
「どうしたの?」
「内緒」何か企んでいるな、ヨーコの嬉しそうな顔を見て、リュウジも表情が緩んだ。
「あ、リュウさんやっと笑ってくれた」
「え、そう?」
「うん、少し難しそうな顔してたよ」
「大人の男って渋いな、って思った?」わざとらしくかっこつけて言ってみたが「思わない。リュウさんはリュウさんだもん」リュウジの隣に立ってヨーコも街を見渡した。
「リュウさんの家ってどこ?」
「ここからじゃ見えないよ」
「そうなんだ」ヨーコが少し残念そうな表情をした。
13年前のあの日、たまたま”先輩”に会いにエネルギー管理局に行った。あの場にいなければ、ヨーコちゃんとこうして今まで一緒にいることもなかったんだろうな…。これはよかったことなのか悪いことなのか未だに分からない。
「ねえねえ、そっち行っていい?」すぐ隣に立っているヨーコが言った。
「そっち?」リュウジがヨーコに体を向けると、手すりから離した左手からヨーコがリュウジの前に立った。リュウジが左手を元の位置に戻すと、ヨーコはすっぽりリュウジの体に収まった。
「きれいな夕焼けだねぇ」
「ほんとだ」幾度となくこんなときを過ごす。誰も知らない二人だけの時間。
「リュウジさん、こんなところにいたんですか?」屋上の入口にヒロムが立っていた。
「ヨーコ知りませんか?」少し日が落ちてきた屋上でリュウジの体の陰になったヨーコはヒロムから見えていないらしい。
「いや、こっちには来なかったけど、どうかした?」
「ウサダが探してました。リュウジさん、またヨーコの宿題やってあげたんですね」ヒロムは少々あきれたような表情をしていた。
「…あぁそれか。俺も少ししたらヨーコちゃん探すから」リュウジが答えると、じゃお願いしますとヒロムは去って行った。
「ドキドキしたね」ヨーコがリュウジの方に顔を向けて見上げた。
「ここにいるのがバレたらウサダにもヒロムにも怒られるな」手すりに置かれたヨーコの手にリュウジが手を重ねた。
「べ、別に黙っていれば大丈夫だよ」きっとヨーコは真っ赤な顔をしてる。名残惜しいけど、そろそろ行かなきゃ。リュウジが歩き出すと、ヨーコが後ろから声をかけてきた。
「リュウさん、あのね、夢ならできた」
「どんな?」
「まだ内緒。でもリュウさんがいなくちゃ成り立たない夢だから」またヨーコが嬉しそうな顔をする。
「そんなに楽しいことなんだ?」
「うん。ヴァグラス倒したらちゃんと言う。だからリュウさん、ちゃんと答えてね」
ヨーコちゃんが俺と同じことを思ってたらいいな。けど、先に俺が言っちゃうだろうなぁ。大人としては黙って見守るべきか…すっかり日の落ちた屋上を歩きながら、リュウジは思いを巡らせた。